2025.09.17スマレボストーリー
【創業編】#8 赤字ホテルの「不都合な真実」 ~お客様が教えてくれた、逆転の一手~

こんにちは。株式会社スマレボ代表の米澤です。
前回、フロントスタッフの総退職という絶望的な状況を、多くの人の助けを借りてなんとか乗り越えた話【第7話】をしました。
しかし、素人集団での船出となった私たちを待ち受けていたのは、初日から「会計が8万円も合わない」という、あまりにも手厳しい現実でした。
赤字ホテルの再建という航海は、まさに波乱の幕開けとなったのです。
初日から大赤字!利益を阻む「見えない壁」
2014年4月1日、ホテル経験ゼロの素人集団による新体制がスタートしました。しかし、その日の夜、私たちは言葉を失います。なんと、初日の会計が8万円も合わなかったのです。
運営業務に慣れるのでさえ精一杯なのに、いったいどこでこれほどの誤差が生まれたのか、原因すら突き止められません。パソコンの電源の入れ方から教えなければならないメンバーもいる中で、ホテルの根幹である予約システムや会計業務は、あまりにも複雑でした。
しかし、問題はそれだけではありませんでした。
運営に少し慣れ、契約書に目を通していくうちに、私はこのホテルが抱える、より深刻な問題に気づいたのです。それは、「どうやっても利益が出ない仕組み」になっているという、恐ろしい事実でした。
当時のホテルは、売上の大半を大手旅行代理店に依存していました。契約では、全130室のうち80室ほどが代理店に押さえられていました。一見、安定しているように見えますが、その実態はホテルにとってあまりに不利益なものでした。
代理店は、予約が入りやすい土日だけを販売し、売れ残った平日の客室は2週間前になると大量にホテルへ返却してくるのです。この契約を続けている限り、どれだけ現場が努力しても黒字化など夢のまた夢だと、私は確信しました。
業界の「常識」への挑戦
このような不利益な契約こそが、当時のホテル業界の「常識」でした。だからこそ、その契約を解除することは簡単なことではありませんでした。
「この契約って、そもそも必要なん?!」 私がそう言うと、業界経験のある数少ないスタッフは「とんでもない!大手代理店との信頼関係を失ったら、うちは終わりです」と猛反対しました。
しかし、ホテル経営の素人だった私には、その「常識」が理解できませんでした。お客様がビジネスホテルを選ぶとき、「あそこは大手代理店と契約しているから」なんて理由で選ぶでしょうか?答えは、絶対に「NO」です。
業界の慣習に逆らう大きな決断を下し、新たな活路を見出すために、私はまずお客様の本当の声を知る必要があると考えました。そして、自らフロントに立ち、お客様の本音を聞くことで、本格的な経営改革へと踏み出したのです。
お客様が教えてくれた「不都合な真実」
ある日、市内でアイドルのコンサートがあった影響で、珍しく平日にも関わらずホテルが満室になりました。私は制服を着てフロントに立ち、お客様に声をかけました。
「本日は、どうして当ホテルを選んでくださったのですか?」
すると、返ってきたのは予想もしない言葉でした。
「市内がどこもいっぱいやったからや。こんな遠いとこまで来させられて…」
お客様は、不機嫌さを隠そうともせずにそう言いました。その一言で、私はハッとしました。そうか、このホテルはお客様に喜んで選ばれているわけじゃない。他のホテルがどこも空いていないから、「仕方なく」泊まっているだけなんだ、と。
この厳しい現実は、私に重要な気づきを与えてくれました。国内のビジネスマンをターゲットにしている限り、このホテルは永遠に便利な駅前のホテルの「受け皿」でしかない。ならば、ターゲットそのものを変えなければならない。
この「不都合な事実」こそが、私たちの新たな戦略の出発点となったのです。
1. 平日は「海外の団体旅行客」を狙う 駅から遠いという弱点も、バスで移動する海外の団体旅行客にとっては関係ありません。
2. 土日は「オンライン」で高く売る 大手代理店への依存をやめ、自社で価格をコントロールできるオンライン販売に切り替えます。
この「平日は団体客で稼働率を埋め、土日は個人客で利益率を上げる」という、まさに逆転の発想ともいえる戦略に、私たちは活路を見出しました。
そして、私たちの改革の成果を試すかのように、一年で最もホテルが賑わう大型連休「ゴールデンウィーク」が、すぐそこまで迫っていました。
この繁忙期を乗り越えれば、きっと波に乗れる。そんな期待を胸にしていた私たちを、ホテル業界で最も恐ろしい悪夢が待ち受けているとも知らずに……。
私の物語は、まだまだ続きます。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。