2025.11.30スマレボストーリー
スマレボストーリー【成長編】 第4話:鳴り止ない電話と、個人の奇跡
こんにちは!株式会社スマレボ代表の米澤です。
前回、ワンマン社長に「俺は変わらん!」と3ヶ月で契約を打ち切られてしまった、痛い失敗のお話をしました。「仕組み」以前に、経営者の「心」に寄り添うことの難しさを痛感した出来事でした。
そんな失敗の少し前、私がある大手機械メーカーの子会社で体験した、二つの出来事をお話しします。この会社こそが、後に私の「成長編」の核心となる、最大の学びの場となってくれるのです。
営業の仕事を麻痺させる「鳴り止ない電話」
最初のご依頼は、「営業のスキルアップ」でした。
しかし、現場に入って私がまず驚いたのは、営業担当の絶えず鳴り響く携帯電話でした。ひっきりなしに着信があり、営業さんたちは本来の仕事そっちのけで、その対応に追われています。
「お客様からの部品の注文とか、納期の問い合わせとか、クレームとか…ですね…」
多い人では1日に40本以上。有給休暇中でも携帯は鳴り止みません。
メンタルを崩して休職する社員も出る、まさに負のスパイラル。
その元凶の一つが、パワハラ気質の営業部長でした。「なんでできないんだ!」と怒鳴るばかりで、誰も「このやり方はおかしい」と声を上げられないのです。
問題は明らかでした。営業がやるべき「コア業務」と、他の部署でもできる「ノンコア業務」がごちゃ混ぜになっている、「仕組みの欠如」です。
まずは「仕組み」で電話を止める
私は当時、親会社も含むグループ会社全体のIT会議にも参加していました。そこで「営業さん個人に電話で来ている部品の注文や問い合わせを、ECサイトで一括して受け付ける仕組みに変えませんか?」と提案したのです。
「昔からこうだったから」と抵抗する勢力もありましたが、疲弊しきっていた現場の声にも後押しされ、改革は実行されました。
結果は、劇的でした。
営業の携帯に直接かかってきていた電話はECサイト経由に集約され、営業さんはようやく本来の「営業活動」に時間を使えるようになったのです。
笑顔を忘れた事務所と、不機嫌な彼女
「仕組み」で業務は改善しました。しかし、パワハラ部長のもとでピリピリしていた「職場の空気」は、まだ重いまま。
私は並行して、「なりたい自分」を明確にし、その行動計画に落とし込む研修も行っていました。
研修当日、会場の隅に、ひときわ異彩を放っているベテラン事務の女性がいました。仮に、竹下さんとしましょう。
レースのついた可愛らしい服装なのですが、表情は一切笑わず、腕を組んで、明らかに不機嫌なオーラを全身から放っているのです。
彼女の存在が、事務所全体の空気をピリつかせている原因の一つであることは、火を見るより明らかでした。営業さんたちも「あの人がいるから事務所に行きにくい」とこぼすほどです。
面談で、竹下さんは私にこう不満をぶつけてきました。
「うちの事務所、雰囲気が悪くて嫌なんです。みんなムスッとしてて。だから私も気分が悪くなるんです」
周りが不愛想だから、自分も不愛想になる——。
でも、私は気づいていました。彼女自身も、周りから見れば「ムスッとしている一人」だということに。
研修の最後、私は全員にこう問いかけました。
「職場の空気が悪いとの意見が出ましたが、他人や環境は、変えられません。でも、自分の行動は、今すぐに変えられます。職場の空気は、誰か一人の小さな行動から、変えることができるんです。自分が周りを照らす太陽のようになりましょう。」と。
そして、「なりたい自分になるための、明日からの行動を決めましょう」と提案しました。
すると、周りの不満を口にしていた竹下さんでしたが、「なりたい自分」を問われると、ポツリと「やっぱり、笑顔で元気に挨拶できる自分ですよね」と言いました。
そして、渋々といった様子で、一つの実践を決めたのです。
「…じゃあ、笑顔で挨拶します」
たった一つの実践が起こした「伝説」
そして翌日、奇跡が起こりました。
いつも不機嫌そうに席に着いていた竹下さんが、勇気を振り絞って、同僚に笑顔で「おはようございます!」と声をかけたのです。
声をかけられた同僚は、一瞬キョトンとしましたが、すぐにつられるように「あ、おはようございます!」と笑顔で返しました。
その日を境に、竹下さんの実践は続きました。
すると、どうでしょう。
今まで竹下さんを怖がり、事務所に行くのも電話をかけるのも嫌だと思っていた周りの社員さんたちが、「竹下さん、最近すごく良いですね!」「話しやすくなった!」と、彼女を褒め始めたのです。
周りからポジティブな反応が返ってきたことで、竹下さん自身が一番驚き、そして、どんどんご機嫌になっていきました。
彼女はハッとしたそうです。
「いつも周りが不愛想だと思っていたけど、一番不愛想で、怖い顔をしていたのは、自分だったのかもしれない…」
「私が笑顔で挨拶したら、みんな笑顔で返してくれるんだ」
自分が変われば、周りも変わる。
「仕組み」で業務を改善し、「個人の意識」で職場の空気を変える。
この「竹下さんの変化」は、後に「あの竹下さんが変わったんだから!」と社内で語り継がれる「伝説」となり、確かな希望の光を灯しました。
二つの成果が出たこの会社で、私はこの後、パワハラ部長の異動、新リーダーの着任、そしてコロナ禍という、さらなる大きなうねりに立ち会うことになります。
次回、新リーダーの苦悩と、コロナ禍での大きな決断のお話です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
