2025.10.05スマレボストーリー

【創業編】#9「50室のオーバーブッキング事件!」 ~絶体絶命の危機を乗り越え、3ヶ月で黒字化を達成した軌跡~

こんにちは。株式会社スマレボ代表の米澤です。

 

前回【第8話】では、新体制スタート初日に8万円もの会計ミスが発覚し、さらにホテルの利益を構造的に阻害していた「見えない壁」の存在に気づき、経営改革に乗り出すまでのお話をしました。
素人だからこその視点で、ようやく反撃の一手を見出した私たち。しかし、そんな一筋の光明を打ち砕くかのように、ホテル業界にとって最も恐ろしい悪夢が、すぐそこまで迫っていたのです。

 

前スタッフからの置き土産?50室のオーバーブッキング

 それは、一年で最も客室が混み合うゴールデンウィークのことでした。改革の成果が少しずつ見え始め、この繁忙期を乗り越えれば波に乗れるかもしれない。そんな期待を抱いていた矢先、フロントスタッフの悲鳴に近い報告が私の耳に飛び込んできました。

 

「大変です!予約が重複しているお客様が、何組もいらっしゃいます…!」

 

原因は、退職していったスタッフたちが残していった、複雑な予約管理体制の罠。
まるで、私たちを陥れるために仕組まれた時限爆弾のようでした。
次から次へと到着されるお客様。しかし、ご案内できる部屋はどこにもない。
ロビーは、行き場を失ったお客様の怒号と、スタッフの謝罪の声で埋め尽くされました。

 

「どうしてくれるんだ!」
「支配人を呼んでこい!」

 

お客様からすれば、当然の怒りです。楽しい旅行になるはずが、ホテル側の不手際で台無しにされているのですから。
スタッフの中には、あまりの剣幕に泣き出してしまう者もいました。会社を立ち上げたばかりの私にとって、それは筆舌に尽くしがたい、まさに地獄のような光景でした。

 

困難がくれた、最高の宝物

絶体絶命の状況。しかし、私はここで逃げるわけにはいきませんでした。
「私が全部謝るから、みんなはお客様のケアに集中して!」そう伝え、私は怒りの矛先が集中するフロントに立ちました。
そして、スタッフ一人ひとりに「こういう風に事情を説明して、こうやって謝罪してください」と、具体的な対応方法を必死で教えました。

 

素人集団だった私たちは、お客様への上手な謝り方さえ知りませんでした。
しかし、この時ばかりは全員が必死でした。涙をこらえながらお客様に頭を下げる者、必死で近隣のホテルに空室がないか電話をかけ続ける者。誰一人として、他人事だと考える者はいませんでした。

 

不思議なことに、この地獄のようなGWを乗り越えたとき、私たちの間には以前とは比べ物にならないほどの強い「絆」が生まれていました。
「あの危機を一緒に乗り越えた」という事実が、寄せ集めだった私たちを、本当の意味での「チーム」に変えてくれたのです。

 

「困難だったからこそ、仲間が団結した」。この経験は、今でも私の経営者人生における最高の宝物です。

 

全員で掴んだ、3ヶ月での黒字化

 この事件をきっかけに、私たちのチームは大きく変わりました。
一人ひとりが「自分たちのホテルを良くしたい」という当事者意識を持つようになったのです。

 

そのエネルギーは、日々の業務にも現れ始めました。
「どうすればもっとお客様に喜んでもらえるだろう?」
「どうすればもっと売上が上がるだろう?」

 

私たちは、マクドナルドの「ご一緒にポテトはいかがですか?」という言葉をヒントに、チェックインの際に「ご一緒に朝食はいかがですか?」と、朝食券を販売するためのお声がけをする作戦を始めました。
誰が一番売上を上げたかをペアで競うランキングを作るなど、ゲーム感覚で楽しみながら取り組んだ結果、朝食の売上は面白いように伸びていきました。

 

夏には、赤字続きだったレストランを活性化させるためにビアガーデンを企画。
しかし、知名度のない私たちのホテルに、お客様が来てくれるはずもありません。
そこで私たちは、全員で駅前に立ち、ティッシュを配って宣伝活動を行ったのです。

 

ホテルマンが、駅前でティッシュを配る。業界の常識からすれば、ありえないことだったかもしれません。
しかし、私たちにはそんなプライドよりも、「自分たちの力でこのホテルを立て直すんだ」という強い想いがありました。

 

そして、新体制発足から3ヶ月後。
私たちはついに、単月黒字化を達成したのです。

 

「やっぱりホテルは儲かるやんけ!」
報告を受けた会長は、満面の笑みでそう言いました。

 

毎月300万円の赤字を垂れ流していたホテルが、たった3ヶ月で利益を生む組織へと生まれ変わった瞬間でした。
それは、オーバーブッキングという最大の危機を、スタッフ全員の力で乗り越えたからこそ掴み取れた、奇跡的な勝利だったのです。

 

こうして、私たちの再建物語は最高の形で実を結んだかのように見えました。しかし、会長との関係、そしてこのホテルとの運命は、まだ誰も知らない未来へと続いていくのでした。

 

私の物語は、まだまだ続きます。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。